朝青龍引退again

朝青龍の引退から二日経ったが、まだ言いたいことがあるのであらためてエントリを書くことにする。
私は、今回の引退は理事選騒動も含めた相撲協会の体質、相撲の将来という大きな視点から論じられるべきであって、朝青龍という個性にのみ帰せられてはならないと強く考えている。この際、引退そのものの是非は措く。問題は、朝青龍がすぐにモンゴルに帰国しそうであり、しかもこれに対して批判的な論調が少なからず存在するということだ。角界に残らないのなら引退して早々に帰国して何が悪いのか、親方にならないんだったら日本で何をするのかという話である。実際問題として不祥事での引退だから相撲協会には残らない(残れない)のだしても、仮にこのような不祥事でなく朝青龍が花道を飾って引退したらどうなっていたか?それでも協会には残らなかった可能性が高いのではないか。これだけの実績を残した横綱が最初から協会に残らないというのは前代未聞だ。不祥事で引退したことで、むしろその点がうやむやになってしまった印象がある。
功成り名を遂げた外国出身力士は引退後どうするのか。高見山という特異なパイオニアが定年を迎えた後、実は外国出身の親方は武蔵丸しかいない。その武蔵丸も借株での部屋付親方であり、独立には遠い*1小錦も曙も協会を去った。他にもアメリカ、アルゼンチン、モンゴル等出身の関取が存在したが、いずれも引退後は角界に残っていない。親方になるには日本に帰化しなければならない上、外国出身者が親方として成功するのは現役として成功する以上にハードルが高いことを示している。このような現状にも関わらず、相撲協会が積極的に外国出身親方をサポートしていこうという姿勢はほぼ皆無だと思われる。現役を見ても、上位が外国勢に占められている中で、すでに年寄株を取得しているのは稀勢の里安美錦といった日本勢ばかりである*2。だから、朝青龍に関しても大統領への野心とかビジネスとかでどうせいずれモンゴルに帰る奴、という評価はニワトリ卵というか、むしろ順番が逆なのだ。
魁皇琴光喜が遠からぬ将来に引退すると、日本人力士は大関候補すらおぼつかない状況である。そんな中で、外国出身力士が親方となって相撲協会に残るという引退後のモデルが成立しなければ、いずれは彼らに勝てない日本人力士ばかりで相撲協会を運営していくことになるし、朝青龍に限らず、外国出身力士は角界の外で引退後の準備を進めることになるだろう。それが大相撲の将来像なのだろうか?朝青龍の引退で一人横綱となった白鵬はいまのところ日本に残りそうな様子を見せてはいる。しかし、ここで理事選騒動に話を転じると、意外と注目されていないようだが、白鵬が「自分に投票権があったら貴乃花に入れた」と口走ったという報道がある。事実とすれば、横綱とはいえ、一介の外国出身現役力士に過ぎない白鵬が「一門無視」を表明したかなり踏み込んだ発言だ。貴乃花が実際のところどのような改革を考えているのかはよくわからないし、単なるアホという可能性も高いが、白鵬の発言は「今のままの相撲協会では、引退後の自分に未来はない」という危機感の表れではないかとbroadmindは見ている*3。そしてその危機感が、朝青龍引退を受けた記者会見での涙にもつながっているのだと思う。
よって、理事選と朝青龍引退というこれら二つの「祭り」は、「世間の常識の通じない閉鎖的な相撲協会朝青龍を甘やかした」という形でつながっているのではなく、「外国出身力士に依存しながら彼らを然るべく管理も処遇もできない相撲協会」という形でつながっているのである。より大きな絵を描くならば、世間の常識から外れているどころか、むしろ外国人のプレゼンスがかつてなく高まっていながら内輪の論理に終始して彼らへの寛容度が低下している現在の日本社会の縮図だとすらいえる。
話をクルリンパと元に戻すと、「もし不祥事での引退じゃなかったら、これほどの横綱が協会に残らないことにことについてどう考えているのか、どう落とし前をつけるつもりだったのか」について相撲協会の新執行部から是非話を聞きたいところなのである。それを抜きにして朝青龍がモンゴル大統領を目指すの目指さないのというような報道でゴシップ的に盛り上がるのは全くの欺瞞である(外国人力士の受け入れに全面的に反対なのでない限りは)。

*1:ちなみに同世代の武蔵川部屋出身でも、大関であった日本人の武双山や出島はすでに年寄名跡を取得している

*2:唯一の例外が、親方に婿入りした旭天鵬。当然ながら旭天鵬はすでに帰化している

*3:白鵬の実質的師匠である前宮城野は前頭、名目上の師匠である現宮城野に至っては十両である