ジンバブエ情勢斜め読み

ついにインフレ率が220万%に到達したジンバブエ情勢に興味がある人はそれなりにいると思いますが、関連して最近気になっているよりマニアックな話題についてコメントしたいと思います。
ジンバブエ情勢といっておいて、実はエチオピアの話です。なぜ、ジンバブエエチオピアか?実は、あのメンギスツがまだ生きているのです。「あの」とかいっておいて、ピンと来る読者は2名程度しか想定してませんが。
70〜80年代エチオピアの「赤い独裁者」であったメンギスツ・ハイレ・マリアムは共産主義独裁体制の下で数十万ともいわれる国民を粛清した後、反政府勢力に敗北して91年に失脚、ジンバブエに亡命。現在もムガベ政権の庇護の下、ジンバブエの首都ハラレで暮らしているとされています。一方、母国エチオピアでは彼は「ジェノサイド」に対する罪で欠席のまま死刑判決(終身刑かと思っていたら、ソースはwikipediaながらごく最近になって死刑に変更された模様)が下っています。
さて、そこで話はジンバブエ情勢に戻ります。大統領選の決選投票を葬り去って権力の座にしがみつくムガベと高まる国際社会からの圧力。無論、ジンバブエ情勢自体も非常に興味深いのですが、仮にムガベ政権が崩壊した場合、果たしてメンギスツの処遇がどうなるのかが非常にキニナルところです。
旧共産圏諸国は共産主義体制の崩壊後、当時の指導者に対する落とし前はほぼ付けています。アフリカでも名物的な独裁者を含め、70年代〜80年代前半からの独裁者となると90年代後半から00年代前半にかけてほぼカタが付き、赤道ギニアのンゲマのような超マイナーな例を除くと、長年にわたる独裁者というのは他ならぬムガベくらいのものでほとんど見られなくなっていますし、失脚・亡命したかつての独裁者もすでに軒並みこの世を去っています。
したがって、メンギスツはムガベと並ぶ存命の「最後の大物」の一人であるということができるでしょう。しかも、強権なりにそれなりの結果を出して評価されていた時期もあるムガベに比べて、いかにも冷戦期アフリカの独裁者らしい、ほとんど国を荒廃させただけの独裁者という意味ではメンギスツは本当に生き残っている最後の一人です。
そういうノスタルジック(?)な面白さに加えて、もしメンギスツがエチオピアに引き渡されてきっちりと裁かれることになれば、個人的にはアフリカ新時代の象徴ともいえるのではないかと思います。ボカサとかモブツとかアミンとか、独立後のアフリカ諸国からは「暗黒大陸」のイメージを象徴する珍妙かつ残虐な独裁者が何人も登場しましたが、いずれも裁きはあやふやのまま死んでいます。裁かれた(処刑された)ケースでも、法治主義的な手続に則ったものはほとんど皆無でしょう。もしムガベ政権が崩壊し、法による支配の下、エチオピアでメンギスツが裁かれることになったら、かなりアフリカが世界に「追いついてくる」感覚になると思います。
個人的にエチオピアという国は高く評価しています。独自の文化と歴史があり、苦難の近現代史と結果としての教育水準の低さにも関わらず、経済力で同レベルの国々と比較すると国民の知的レベルでは抜きん出ていると思われます。引き続きエリトリアソマリアとの困難な問題を抱える同国ですが、メンギスツ時代の暗黒の歴史にけじめをつけてアフリカの希望となってほしいと願っています。どんな形であれ、彼が公衆の面前に再び姿を現すことはあるのでしょうか。