左右よりも上下―橋下徹当選雑感

日曜日には白鵬朝青龍戦に加えてもう一つ大きな(?)ニュースがあった。大阪府知事選で橋下徹が圧勝した。
私は橋下という人間の政治信条も人間性も好きではないが、彼を府知事にしたのは悪くない選択だと考える。例えば、自分にとって石原慎太郎は間違いなく嫌いな政治家の最上位に入るが、今になって思うと彼を都知事にしたことは(浅野を唯一の例外として、少なくとも他の候補を代わりに知事にした場合に比べて)必ずしも大きな間違いだったとは思わない。国政レベルでは政治信条の偏った人間に荒らされるのは勘弁してほしいが、地方首長レベルならば政治信条云々にこだわるよりも、むしろ行動力のあるアクの強い人間にやらせた方がいいんじゃないかとすら思い始めた。結局は「右か左か」よりも「上か下か」が大事。
他ならぬ白鵬の表彰式でも一番目立っていたのは、言うまでもなく白鵬本人ではなく東国原宮崎県知事であった。知事の価値は任期を全うして初めて確定するのだろうが、今のところ東国原を知事にした宣伝効果は絶大で、知事というポストにおいて個人の資質や能力がいかに大きな影響力を持つかということを思い知らされる事例となっている。
橋下に話を戻すと、街頭演説の映像などを見ても彼はプレゼンの仕方が非常に上手い。単にタレント出身というだけではテレビカメラに向かって話すことはできても選挙演説で生の聴衆にあそこまで訴える能力が身に付くというものではないだろう。よくよく経歴を見ると彼は弁護士としてもかなり優秀だったようで、法廷で生身の人間を相手にするプレゼンにもかなり長けていたことがうかがえる。アメリカみたいな法廷が望ましいわけでは決してないが、日本の弁護士は一般にプレゼンが下手すぎるので9割方の弁護士(除く渉外)は彼の演説を見て反省した方が良い。また、彼は弁護士関連の言論でも物議を醸したことがあるが、経歴を見る限り、弁護士の仕事を知り尽くした彼が本心から例えば光市殺人事件被告弁護団懲戒請求などを求めるとは思えず、あの発言をした当初から弁護士としての信用もタレントとしての値段も犠牲にして大衆心理を煽る、政界進出を見越したパフォーマンスだったと見るべきだろう。やり方は気には食わないが、なかなか侮れない男である。
東京人としての立場からはっきり言うと、現在の「大阪」府知事選自体に大した象徴的意味合いはなく、宮崎県知事選と同様の単なる一首長選でしかない。東京人の目から見ても大阪が単なる一地方都市(のうちの相対的に大きいところ)ではなく今一度「特別な存在」たり得るように橋下氏のリーダーシップを期待したい。