Z

Understanding Democracy through Historyの課外授業として映画「Z」を鑑賞した。「登場人物に実在の人物との類似があるとすれば、それは意図的である」というナレーションで始まるこの映画。60年代ギリシャで実際に起きた人気左翼政治家の「事故死」を題材に、実は裏で蠢く右翼政治集団、彼らを手先として使う警察権力・軍部の描いたシナリオによる「暗殺」であることが徐々に判明するが・・・。
その極めて政治的な内容にも関わらず、全編が諷刺に満ち、コミカルな演出の連続で肩肘張らずに丸二時間楽しめる内容になっている。しかし、余韻が醒め、あらためて映画の内容について思いを致すと・・・本当に背筋が寒くなる。れっきとした法治国家で、「制度」としての民主主義も言論の自由も存在しているが、それが国家権力による暗黙の圧力と暴力装置の活用によって有名無実化されていく過程。その一部始終をものすごいブラックユーモアで抉り出した怪作といえよう。自由の尊さと危うさを説教臭くないやり方でイヤということ認識させてくれるコスタ・ガヴラスの力量に脱帽。
また、一番最初には悪の手先だか何だかわからない風情で登場したJ=L・トランティニアン演じる予審判事の妥協のない執拗な捜査には思わず快哉を叫びたくなる。「反権力」を徒に美化せず、権力の側にあって正義を貫こうとする人間をも描いているバランス感覚も素晴らしい。