NHKの民衆法廷番組に関する報道について

昨日、朝日新聞でこんな報道があった。
http://www.asahi.com/national/update/0112/006.html
4年も前の件の番組については見ていないので内容については何とも言えない。慰安婦問題については誇張の存在や、信憑性の疑われる証言がまかり通ってきたという事情もあり、特に昨今の流れからすると取り扱いには細心の注意を要する題材である(こうした時代的な感覚を相対化するのは難しいので、2001年の放送時であればどのような印象を持ったであろうかを言うのは難しい)。したがって、内容によっては、偏向した番組だと言われる余地はあるように思う。
しかし、報道内容が事実であるならば、中川氏、安倍氏という政治家の圧力によって放送前に番組内容を変更したことは「問題」だと考える。例え偏向していようとも、公共放送たるNHKの編成がその内容を認めたのであれば「偏向していそうだから放送してはならない」などと政治家が事前に圧力をかけるのは論外であり、放送後に抗議をすれば良いことである。仮に偏向したお寒い番組であれば、事前に路線を修正できなかったNHK自身には重大な問題があり、情けない限りである。この点は別途検証の必要がある。しかしあくまでも「別途」である。仮に偏向していた「としても」、だからと言って、放送前に(どこから聞きつけたのか)国会議員がやってきて内容の変更を要求することを正当化することには全くならない。ここが混同されてはならない。これがこの問題のポイントであると思う。
念のため言っておくと、逆の場合もまた然りであり、仮に右方向に偏った番組をどこかの放送局が放送しようとした場合、編集段階でそうした偏向を修正できなかった放送局は恥ずべきとは思うが、放送前に嗅ぎ付けた社民党なり共産党なりの議員が圧力をかけて放送自体をやめさせようとしたら、そいつらはどうかしているのではないかと思う(但し、当時内閣の一員であった安倍氏の責任は一国会議員よりも重いとは言える)。
無論、こうしたことにも程度というものはあり、例えば金正日がいかに素晴らしい指導者か讃える番組とか、危険なサブリミナル入りまくりの番組とかが放送されそうだということになると、実力を行使してでも放送を阻止すべきという緊急避難的な対応も必要だろうが、(繰り返しになるがこの番組は見ていないが)慰安婦問題に関する限り、controversialではあるが、むしろそうであるが故に事前に圧力をかけることが正当化されるほど、ある特定の見方を放送することが危険だとは言えないはずである(偏向だと思うならば、事後に偏向だと抗議すれば良く、事前にやめさせないと取り返しがつかなくなるような類のものではない、という意味)。そういう意味では、少なくとも、この問題がcontroversialだという認識を持つ程度に自分が「サヨク」であることを認めるのには吝かではない。

しかし、このプロデューサーもなぜこのタイミングで告発なのか?裏がないはずがあるまい。続報の
http://www.asahi.com/national/update/0113/014.html
を見ると、海老沢会長に経緯が伝わっていたということが強調されているようなので、海老沢辞任への追い風にはなるだろうが、今こんなことを告発してもNHK全体にとって良いことはあまりないだろう。海老沢を辞めさせたい労組が裏で糸を引いたのか?中川氏、安倍氏の強権右翼っぷりを強調したい朝日の暴走なのか?いずれにしても、NHKをめぐる議論がかまびすしい昨今、こうした問題がセンセーショナルに取り上げられることで、NHK改革の話が変な方向へ進んでしまうことをこそ、私は最も懸念する。