科学とか工学とか名乗るなら「百年に一度」とか安易にいうな

なんか「百年に一度の経済/金融危機」とかいう表現があっさりと人口に膾炙しているところをみると、経済学にせよ金融工学にせよ、やっぱりちゃんとした科学や工学の域には至っていないんじゃないかなと。
「百年に一度の洪水」とか「百年に一度の地震」とかいう場合、数字が当たっているかどうかについては常に検証とフィードバックが必要であるにせよ、それが「何を意味しているか」の定義は明らか。
それに対して、金融危機の話か恐慌の話かしらないけど、今「百年に一度」と口にしたとき、それが確率的な事象であるのか周期的な事象であるのか、とか百年に一度「何が」起きるという話をしているのか、とかどのようなメカニズムで発生する事象の話をしているのか、等々についてまともな背景が何もない。例えば、1929年の恐慌と今回の危機とでは、時代も経済システムも違うから、危機発生の細かいメカニズムも結果として生じているインパクトも当然違う。もちろん何らかの共通性は見出せるかもしれないけど、じゃあ、この2つのイベントを(百年に一度発生する)「同種」のイベントだと定義づけるものは何ですか、という話。そもそも、仮に何らかの周期性があるとして前回から80年しか経ってないんですが、「百年」っていう数字はどこから来てるの?
もちろん、ちゃんとした経済学者はそんないい加減なこといわないんだろうというのはあるにせよ、上記の例でいえば「百年に一度の洪水」の意味するところは「学者」でなく「実務者」であっても少なくともプロなら理解しているわけで、別に「ちゃんとした学者」だけが踏まえているようなコンセプトではない。それに対して、金融工学を理解なすっているはずの実務者であらせられる金融業界の多くの人間までもが明らかに「百年に一度」とか騒いでいるわけで、その知的な悲惨さには目を覆うばかりである。
なんつうか、この「百年に一度」という表現は金融という世界が想像以上に知的に脆弱な基盤の上に成り立っていたということを象徴しているのではないかと。そのことに、危機が実際に起きたということ以上に情けなさを感じる。土木技術者にはバカもいっぱいいると思いますが、それでもその辺で橋がホイホイ落っこちたりすぐに堤防が決壊したりしないのは膨大な知的蓄積があるからなんですぜ、それに仮に堤防が決壊しても、根拠レスに「百年に一度の洪水」とは誰も言い出さないと思いますぜダンナ、と土木から脱落した人間までもがいいたくなってしまうわけである。