ホンダ「名誉なき」撤退

シーズンオフでもあり、「最悪のタイミング」とまでは言わないが、結果を残すことなく、唐突にかつ即座の撤退を決めたことは衝撃的だし、ホンダ「らしくない」顛末だと指摘せざるを得ない。
自動車業界が未曾有の厳しい環境に直面していることは確かなので、一民間企業の経営判断としては撤退はやむを得ないのかもしれない。しかし、このやり方、この発表の仕方には大いに失望させられた。ホンダがどこを向いているのかよくわからなかったからだ。
「グローバル企業」としての経営判断を語るのであれば、社長には英語で記者会見してほしかったところ。あの記者会見は国内プレス向けかと思ったが、BBCを見ても福井社長が日本語でもごもごしゃべっていたのでズッこけた。F1の宣伝効果は国内よりも海外の方が圧倒的に大きいわけで、これは世界のF1ファン、HONDAファンにわかる言葉で説明するべきだと思う。国際マーケティング戦略としてF1に参戦していたのだとすれば、撤退のダメージを最小限に食い止めるべきメッセージは英語で発信されなければ経営戦略としての整合性が感じられない。
逆に「自らの技術で世界に挑戦する日本企業」という本田宗一郎スピリットでF1に取り組んでいたのであれば、そしてF1撤退をまず日本人に説明したかったのであれば、経営的に苦しくとも即座の撤退はありえない。ファンだけでなく、技術者やチームのスタッフにも失礼である。少なくとも09年シーズンまでは戦うべきだった。そして、トヨタからようやく取り戻した鈴鹿での日本GPで有終の美を飾るべきだった。いくら環境が厳しくとも、それくらいの余力はあるはずだ。
グローバル企業の経営判断として撤退を決めながらあたかも地場プロ野球チームの身売りかのごとく唐突に東京で、日本語で発表された撤退は、91年の「惜別」と比して「失望」を残したのみだと思う。トヨタならまだわかる(もっとも、彼らも撤退するかもしれないが、もう少し上手く立ち回るだろう)。ホンダともあろうものが、いつからこんなに感動を与えない会社になってしまったのだろうか。