イタリアGP解雇

・・・と、ついつい誤変換してしまうくらい、リーマン破綻の衝撃で金融関連のニュースにかぶりつきになってしまったが、週末のビッグイベントは何といってもイタリアGPでのセバスチャン・ベッテルの初勝利。いや、これはすごいことですよ本当に。イタリアGPの長い歴史の中でも、英雄ジャン・ルイ・シュレッサーの活躍でマクラーレンのシーズン全勝を阻みフェラーリのベルガーが勝った88年以来の大波乱といえるであろう。(ここで笑えたあなたは偉い)
資金力がもろにマシンの競争力にはね返り、トップチームと下位チームの差が歴然としている近年のF1では、そもそもトップの数チーム以外のドライバーが優勝するということ自体、極めて珍しい。とはいえ、年間十何戦もグランプリをやっていると、荒れたレースで意外なドライバーが優勝するという事態は時々生じる。典型的なのはパニスが優勝した96年のモナコGPである。また、シューマッハが初優勝した92年のベルギーGPも、当時のベネトンは決して「下位チーム」ではなかったものの、いわゆるスパ・ウェザーで路面状況がめまぐるしく変わる中、優勝を争うにはまだちょっと足りないと思われていたシューマッハがピットストップのタイミングのアヤで気が付いたらトップになっていた、というものだった。
しかし、今回はちょっと事情が異なる。
確かに雨は降っていたが、リタイヤ続出で棚ボタなどということはなく、それどころかフィジケラ以外は全車完走、しかも徐々に路面は乾いていく状況だった。それも、正々堂々のポールトゥウイン。かつ、トロ・ロッソ。いかに雨だったとはいっても、トロ・ロッソミナルディでのポールトゥウインである。タイムマシンで90年代に戻って「ピエルルイジ・マルティニの後継者がポールトゥウイン」といっても、「あっそう。ミナルディザクスピードとモデナあたりとコンストラクターズ争いでもしてるの?(藁)」とか言い返されて終わりそうなくらいの話である(ネタが細かすぎて申し訳ない)
土曜日に(これまた雨で)ベッテルポールポジションを獲得した時点では「雨の予選はこういうことが時々あるけど、決勝ではすぐコバライネンやマッサあたりに抜かれちゃうんだろうな」と思っていた。ベッテルが雨で速いことはすでに去年の富士でわかってはいたけど、若いのにありがちな向こう見ずなドライビングで一瞬速いだけで、とても決勝でその速さを保ったまま完走はできないだろうとも高を括っていた。要は、ドライならすぐに抜かれ、雨ならば途中リタイアだろう、と。
しかし、である。
後ろでトップチームのドライバー達がおっかなびっくりバトルを繰り広げる中、先頭のセナかシューマッハだけ別世界でレースをしてるんだ、よくある光景だろ、とでも説明された方が納得いくくらい、ポールからスタートしたベッテルは見事な走りを見せた。これまでもその速さの片鱗を見せてはいたけれど、この堂々たる走りは何というか、ちょっとしたきっかけで全く別のドライバーが誕生する、その瞬間を目の当たりにした気分である。優勝してからいってもしょうがないけど、こいつは速い。シューマッハアロンソも最初から速くはあったけど、自分がF1を見始めて17年、こういうパフォーマンスをいきなり示したドライバーはいなかったと思う。かつて福永祐一とジャック・ビルニューヴがほぼ同時に登場したのは偶然ではなかったと思っているので、今年もセバスチャン・ベッテル三浦皇成が同時に出て来たのは恐らく偶然ではない。今後しばらくの競馬界とF1界を定めるシーズンになったはずだ。
これでもう本人も周囲も「イタリアGP以前」に戻ることはなくなってしまったけど、まだ21歳だし、願うらくはまだトップチームに行かずに、あと2〜3年はトロ・ロッソなりレッドブルなりでやってくれないかな。トロ・ロッソで「時々勝つ」くらいのポジションを占めていてくれると、グランプリがすごく盛り上がると思う。25歳前後でトップチームに移って、あとは5年でも10年でも勝ち続ければいいだろう。
しかし、これだけベッテルの速さが際立ったのも、周りのドライバーがだらしないせいもあるか。天候の紛れで二度目のタイヤ交換を余儀なくされる不利がなければあるいは、の走りをちょっとは見せたハミルトンはいいとして、ライコネンはもう引退勧告。こういう「一瞬だけ速い」タイプのドライバーは20何台の中にはいてもいいんだけど、フェラーリには不要。あくまでも二流どころのチームにいて、相性のいいサーキットだといきなり速くて盛り上がる、という程度の役割がせいぜいだろう。真の速さを持たないドライバーがトップチームに居座るのはF1にとって害悪である。モナコの時も書いたが、こいつはチャンピオンの器にあらず。