武豊香港騎乗停止でさらに加わるディープ絡みの「気持ち悪さ」

今度は香港で騎乗した武豊が騎乗停止になった。香港では騎乗停止期間の開始を先延ばしにできるとのことで、有馬記念の騎乗はどうやら可能そうである。ファンは一安心というところなのだろうが、気になる点が二つ。まず、いかに斜行にうるさい香港とはいえ、日本のトップジョッキーともあろうものがこの時期に騎乗停止を食らうリスクというものを一体どのように考えていたのか、凱旋門賞以降感じられる関係者のワキの甘さというのがついには鞍上にまで伝染したのかという脱力感。もう一つは、JRAの裁定を注意深く見なければならないが、以前同様のケースで福永が即騎乗停止になった(したがって有馬記念も騎乗できなかった)経緯を考えるとJRA裁定の恣意性という面も残る。要は、「この時期の武豊じゃなかったらひょっとして即騎乗停止だったんじゃねーの!?」という印象を払拭しきれないという気持ちの悪さである。
かつて田原成貴は自らが原作したマンガで、無実の八百長疑惑で競馬界を終われた元ジョッキーに「JRAは競走の公正さに一片の疑いも持たれちゃいけねぇんだ。だからJRAは悪くねぇ」という名ゼリフを吐かせた。その田原自身が後に不可解な疑惑(とその後逮捕)で競馬界を追われることになったのは皮肉なことではあるが、この台詞にはJRAが主催者として果たすべきシビアな役割と、関係者のJRAに対する敬意・畏怖といったものが見事に込められていると思う。
然るに、JRAは現在も同様の緊張感を持っているだろうか?確かにカワカミプリンセスは容赦なく降着処分にした。誰にとっても決して気持ちの良いことではないが、必要な処分である。しかし、ことディープに関する限り、例えば今週末に武豊が決定的な斜行をしたら、本当に騎乗停止処分にできるのか?それを疑わしく感じさせるほど、JRAディープインパクトに対する扱いは普通ではない。
オグリキャップのような奇跡もある。ダイユウサクのような番狂わせもある。サイレンススズカライスシャワーのような悲劇も残念ながら、ある。バクチ打ち以外にも長持ちするファンを作りたいのならば、それはそういうことを全部受け入れた上でなお、競馬を好きになれる人間だけである。したがって武豊有馬記念ディープインパクトに騎乗できなかったとしてもそれもまたドラマの一ページである。いや、ドラマの一ページで「しかない」と言ってもよい。これは単なる精神論やべき論ではなく、「そうでなければ公営ギャンブルとしての競馬は長期的に持続不可能だ」とbroadmindは確信している。もっとはっきり言うと、それが受け入れられないファンからの売り上げに依存するような競馬は危険である。
いい加減しつこいが、競走馬としてのディープインパクトは決して嫌いではない。しかし、ここ最近の競馬界を席巻した現象としての「ディープインパクト」はとにかく気持ち悪かった。有馬記念の結果に関わらず、そのことは15年来の一競馬ファンとしてはっきりと指摘しておきたい。
(※なお、この件に関する「気持ち悪い」という表現はbroadmindのオリジナルではなく、xedos氏より拝借した。これ以上的確な日本語はないと思う。この場を借りてクレジットするとともに御礼申し上げる)