10年後の「次」

マッサの事故も、代役としてシューマッハの復帰報道も、そしてシューマッハ復帰断念も、それぞれに衝撃的なニュースだった。しかし、シューマッハの代わりにバレンシアでは「ルカ・バドエルを起用」のニュースは、衝撃的な興奮を呼ぶものとは違うが、むしろ時を追うほどにじわじわと、質の異なる昂ぶりを私にもたらしている。
92年の国際F3000チャンピオンとして当時はF1でも将来を嘱望されたバドエル。ところが弱小チームのスクーデリア・イタリアからF1デビューを果たしてしまったことが後々まで災いし*1、資金力の無さも相俟って99年までにF1では49戦して入賞ゼロ。「入賞経験のないドライバーの中では最多決勝出走」という不名誉な記録を今のところ残している。
そんな彼が一番入賞に近付いたのは99年にニュルブルクリンクで開催されたヨーロッパGP。雨が降っては止む天候で荒れたレースとなる中、しぶとく走って一時は奇跡的に4位を走行したが、マシントラブルで最後はあえなくリタイア。悔し涙を流すバドエルに「次があるさ」と声をかけたコースマーシャルに対してバドエルは「俺には次がないんだ」と返したエピソードはF1ファンにとっては有名である。
事実、バドエルのF1出走はその99年が最後となり、近年はフェラーリの専属テストドライバーとして(のみ)知られていた。さらに今年はレギュレーション改定でシーズン中のテストが大幅に制限されるようになり、バドエルのようなテストドライバーの役割も限られたものとなっていた。表舞台から消え、そして裏舞台からもいつ消えてもおかしくない状況だった。
ところが、マッサの事故とシューマッハの復帰断念で降って湧いたように「次」が突然、それも10年ぶりに巡ってきた。バドエルはフェラーリどころか、ザコチーム以外からF1に参戦したことはない。90年代初頭からのF1ファンとしては、「バドエルがフェラーリに乗ったらどこまでやれるのか」はある意味でシューマッハ復帰以上に興味深い命題かもしれない。
かくなる上は、バドエルを表彰台に乗せてやりたい。せめて入賞させてやりたい。2009年現在のF1シーンにおいては場違い感溢れるこの38歳のドライバーは、果たして失われた10年を取り戻せるのか。F1でこんなに特定のドライバーを応援したくなったのはどれだけ久しぶりのことだろう。
(追記:それにしても93年時点を振り返ると、16年後のF1で「バリチェロとバドエルがエントリーしてる」と聞かされても当然ながらその経緯は思いもよらないだろうなと。むしろ、93年当時であれば「バドエルはその後チャンピオンになった」と言われてもそんなに驚かないだろうし・・・)

*1:JJレートのファンだったbroadmindとしてはスクーデリアを「弱小チーム」と断じることは若干不本意だが、93年当時のスクーデリアは紛れもなく弱小だった