夢の終わり Part 1

先週末は大きな節目であったと思う。今後世界経済がしばらくは過去数年間のように全て上手く機能するということはないだろう。そして、政治・経済ともに後になって振り返ると先週末が「あれが」というタイミングになったのではないかとすら思う。
まずはベアスターンズの救済合併。いわゆるサブプライム問題自体はすでにここ数ヶ月顕在化していたわけだが、これが特殊な商品の市場がクラッシュしたことに伴う短期、一過性のものではなく、深刻な金融危機が生じていることが専門家やカンの良い人間だけでなく、誰の目にも明らかな形でついに立ち現れることになった。
正直なところベアスターンズはTier 1の投資銀行ではないが、それでも全米第5位の投資銀行救済合併。さらに1株2ドルというその買収価格には驚愕した。買収額「230億円」の記事を見て、よもや「230『億ドル』」の誤植なのではないかとすら思った。230億円なんて、名の知れたようなビルでなくとも、東京のその辺の気が利いたオフィスビルならばそれくらいの価値はある。しかもFT紙の記事によれば、マンハッタンにあるベアスターンズの本社ビルは10億ドルほどの価値があるという。いくら不動産バブルが崩壊したとしても、マンハッタンの好立地にあるオフィスビルの価値が短期的に4分の1どころか、半分になることすら考えられない。時価評価が比較的容易な資産がこれだけあるのが自明なのだから、要はベアスターンズの事業価値はネガティヴだということに他ならない。
これはもう、言うまでもなくサブプライムというようなマイナーな商品の問題ではないし、単なる信用「収縮」の問題ですらない。なんとなれば、資金繰りの問題で行き詰まっただけであれば、緊急資金供給や救済合併自体はあり得ても、こんな買収価格になるはずがないからだ。明らかに流動性(だけ)が問題なのではなく、10日前に70ドルあり、先週金曜日ですらまだ30ドルあったと市場がみなしていた全米第5位の投資銀行の事業価値がわずか2日のうちに完全に否定されたのである。また、裏を返せば救済する側のJPモルガンも、このような条件でなければ応じられないようなお寒い状況だということでもあるのだろう。信用収縮はもちろん、流動性の問題を引き起こすのでどこかのタイミングで危機の引き金は引くわけだが、一方で日本の不良債権問題を見ればわかるように、金融機関の事業価値自体の毀損がそんなに急激に生じるはずがない。山一にせよ長銀にせよ、大手金融機関の最終的な破綻はバブルの崩壊から何年も経過してからである。信用収縮の実体的な影響はまだほとんど現れていないはずで、その段階での大手投資銀行の突然死はあまりに衝撃的だ。
17日本日現在、NYSEでは平静に取引が行なわれているようであるが、「FED出動の是非」「買い叩いた」というような救済策への賛否以前に、この買収劇の持つ凄まじい意味が理解される必要があるように思うが、消化されるには時間がかかるということなのだろうか。自分がもし今金融株など扱っていたとしたら、GS以外の米国金融株を1株たりとも持ちたいとは思わないが。5ドル未満くらいで誰か売ってくれるとかいうのでなければ。ベアスターンズがかなりモーゲージ関連に偏っていたことを考慮しても、これで終わりになると考える理由は何もなく、本日をもって「巨額損失計上」から「大手を含む実質破綻」がいつでも起きるステージに入ったと考えるべきだろう。


先週末のもう一つのメルクマール、チベット大暴動についてはまた明日。